ねらいを明確にするということ(シンプル授業づくり③)
私は、授業をシンプルにしたいと考え、授業の構成要素を削り取れるところまで削り取ってみました。
そこに浮かび上がってきたのはこれだけです。
ねらいの設定→学習課題→学習活動→評価
私たちが普段行っている授業も程度の差こそあれ、概ねこのような形になっていると思います。
しかし、この流れを意識してやるのとそうでないのとでは、同じ授業でも成果はずいぶん違ったものになります。
まず、最初のステップである「ねらいの設定」ということからご説明しましょう。
1年生の「鉄棒」で考えてみましょう。
多くの場合、教師は、体育の副読本を見て1年生に練習させたい技を確認したり、いろいろな技が示してある鉄棒カードを用意したりします。優れた鉄棒カードがあれば、子どもたちはできた技に○をつけ、意欲的に学習に取り組むことでしょう。
ところで、1年生の鉄棒のねらいは何でしょうか?
教師は鉄棒カードを用意してしまった時点で、漠然としたねらい(例えば「できない技をできるようになる。」というような)を、意識的にまたは無意識的に設定してしまうのではないでしょうか。
また、意欲のある先生は、「全員に逆上がりを習得させたい!」と意気込んで授業に臨むかもしれません。
1年生の鉄棒のねらいは、学習指導要領に明記してあります。
『ウ 鉄棒を使った運動遊びでは,支持しての上がり下り,ぶら下がりや易しい回転をすること。』
残念ながら、これだけでは具体的にどんな技を身につければよいか分かりません。さらに、学習指導要領解説を見てみます。
ウ 鉄棒を使った運動遊び
鉄棒を使って, 跳び上がりや跳び下りをして遊んだり,ぶら下がりや回転などをして遊んだりする。
[ 例示]
○ 跳び上がりや跳び下り
・跳び上って支持したり, 支持から跳び下りたりすること。
○ ぶら下がり
・両手でぶら下がっての振動, 片膝をかけての振動, 腹をかけてのぶら下がりなどをすること。
○ 易しい回転
・支持の姿勢から前に回って下りたり, 両手でぶら下がって前後に足抜き回りをしたりすること。
1年生(低学年)が目指すべきは、「逆上がり」ではなく、「前回り下り」や「足抜き回り」なのです。
1年生の子どもたちと鉄棒の学習をしてみると分かりますが、中には鉄製の棒そのものが恐くて居すくまってしまう子もいるほどです。だから、学習指導要領は、鉄棒につかまったり、ぶら下がったりするところから、スタートしているのです。
気をつけてほしいのは「前回り下り」です。「前回り下り」ができない子の中には、頭が下になった時、落ちる自分を守ろうと手を離して地面につこうとする子がいます。教師は、子どもの頭を支えてやりながら、安心感の中で回る感覚を身につけさせていかなければなりません。
鉄棒カードで学習をしてしまうと、必ず習得させたい技と、そうでない技の見極めができなくなりがちです。
そうして、前回り下りができないままの子が、6年生になって前回り下りをして、手を離してしまい、顔から落ちて救急車で運ばれたという事例もあるのです。
「前回り下り」「足抜き回り」というゴールがはっきりすれば、自ずと、学習課題も学習活動も評価も見えてくるでしょう。このように、やるべきことと、やらなくていいことをはっきりさせるのが「ねらいの明確化」です。シンプルな無駄のない授業は「ねらいの明確化」から始まるのです。

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