シンプル授業の作り方《初級編》(3)作文
ここで扱う作文は、国語の作文単元のものではなく、行事の後に書かせる生活作文や、お礼の手紙などの日常的なものです。作文の指導も、「ねらい」「学習課題」「学習活動」「評価」に一貫性をもたせて組み立てることでシンプルに教えやすくなります。
まず、ねらいを確かめましょう。学習指導要領の「書くこと」のねらいは5〜6ありますが、ここではキーワードで示します。低学年は「順序」、中学年は「段落」「中心」、高学年は「構成の効果」です。
では、ねらいを念頭に学習課題を考えてみましょう。
まず、低学年です。低学年で意識したいことは「順序」です。
[遠足でしたことを順序よく書こう。]
[運動会で心に残ったことを順序よく書こう。]
というような学習課題が考えられます。遠足の作文は、「初めに、博物館に行きました。博物館では・・・・・。次に、運動公園に行きました。運動公園では・・・」というように、時間に沿った順序で書かせる課題です。運動会の作文は、「運動会で心に残ったことは3つあります。一つ目は・・・」というように、印象に残った順序で書かせる課題です。
中学年で意識したいことはまず、「段落」です。
[調理員さんへのお礼の手紙を「はじめ」「中」「終わり」で書こう。]
「はじめ」には、まずお礼の文が入ります。「中」は、感謝している内容を書きます。「終わり」は、あいさつです。
「中心」を意識させたい時は、次のような学習課題が考えられます。
[学習発表会で心に残ったことが伝わるように詳しく書こう。]
書き出しを「僕が学習発表会で一番心に残ったことは〜です。」とすれば、おのずと中心が明確になる作文になります。
高学年の「構成の効果」を意識させる課題には次のようなものがあります。
[「(会話文)」から始まる、運動会の作文を書こう。]
[クライマックスを意識して宿泊学習の作文を書こう。]
いずれにせよ、運動会や宿泊学習の全体について書くのではなく、中心を決めて書き進めることになります。
次に「学習活動」について考えます。生活作文やお礼の手紙などを45分という限られた時間で、全員に書き上げさせる最良の方法は例示に尽きます。極端に言えば、教師が書いてみた全文を示してもよいくらいです。本当に作文が苦手な子は、例文を半分くらい写してしまってもよいくらいの気持ちで取り組むとよいと思います。「先生の文は60点くらいだから、みんなはもっと上手に書いてね」と言えば、力のある子はどんどん自分なりの工夫を入れます。中位の子らもストレスなく書き進められますし、下位の子も真似をすれば完成されられる安心感の中で書けます。中には面倒がって相手に伝わるだけの十分な内容を書かない子もいますから、子どもたちの力を引き出すために「原稿用紙1枚以上」などの文字制限や、「気持ちを入れる」「会話文を入れる」「教えていただいた内容を入れる」「同じ文を繰り返さない」など表現上の約束を事前にしておくことが大切です。これは評価にもつながるのですが、どうしても書き直しをさせたい時は、この約束に合っていないところだけを直させます。書き直しは作文嫌いを生み出すので、できるだけさせない方がよいのです。
最後は評価です。できた作文に朱書きを入れて返せばいいのですが、それはなかなかの負担です。私の場合は、書き上がった作文にコメントをして評価をすることが多いです。その場合のコメントは、もちろん学習課題に対してどうであったかを評価します。
学習課題[遠足でしたことを順序よく書こう。]
評価「順序よく書けていて、○○君がしたことが分かりやすかったよ。」
学習課題[学習発表会で心に残ったことが伝わるように詳しく書こう。]
評価「〇〇さんの心の中がよくわかって楽しく読めたよ。」
学習課題[クライマックスを意識して宿泊学習の作文を書こう。]
評価「クライマックスが詳しく書けていて読んでいて引き込まれたよ。」
もし、朱書きをする場合も、このように学習課題に正対したコメントを書きます。生活作文へのコメントは、「お母さんのお弁当おいしかったね。」などと教師が読んだ感想を書く方法もありますが、これは結構な負担で、朱書きになかなか手をつけられずに、教卓の隅に積んだままになってしまうこともよくあります。評価はできるだけ早く返すのがいいのです。
シンプル授業の作り方《初級編》(2)音読
初級編(2)は「音読の指導」です。ここでは中学年を想定してみましょう。
まずはねらいを考えます。そもそも音読の目標とはなんでしょう。
学習指導要領によれば、中学年は「内容の中心や場面の様子がよく分かるように音読すること」。ちなみに、低学年は「語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読すること。」、高学年は「自分の思いや考えが伝わるように音読や朗読をすること。」となっています。
しかし、1時間1時間の学習の中では、「まず、スラスラ読めるようにさせたい」、「内容を把握させるために繰り返し音読させたい」というように、読みの下地を作るための音読が大切になります。上記の低・中・高のねらいは、年間に数回の単元で重点的に行うことにすればよいです。
まず、単元の導入では「読み間違えることなく最後まで読めるようになる」というねらいが考えられます。また、単元の序盤では「繰り返し音読をし、だいたいの内容を捉える」というねらいが考えられます。中盤以降は、音読は行っても、1時間1時間の学習の中心は、説明文であれば「段落相互の関係や事実と意見の関係」、物語文であれば「登場人物の性格や気持ちの変化」に移るため音読自身が学習のねらいになることはないと思います。また、終盤では学習したことを意識しながら、また音読に戻るという展開も考えられます。
次に学習課題を考えます。導入時に、「まず正しく読めるようにさせたい」という時は、次のような課題が考えられます。
[「ごんぎつね」を正しく読めるようになろう。]
[「ごんぎつね」を音読できるようになろう。]
[漢字の読み方を確かめて「ごんぎつね」を読めるようになろう。]
次の段階としてスムーズな読みを目指す時には、次のような課題が考えられます。
[「ごんぎつね」をすらすらと音読できるようになろう。]
[友達と声を揃えて「ごんぎつね」を音読できるようになろう。]
また、単元のねらいに沿った学習課題も考えられます。
[様子を思い浮かべながら音読しよう。]
[大事なところを考えながら音読しよう。]
[「○○(登場人物)」になりきって音読しよう。]
[登場人物の気持ちになって音読しよう。]
[聞いている人に様子が伝わるように音読しよう。]
[大事なところを強調しながら音読しよう。]
その他にも、目標をもたせて取り組む学習課題も考えられます。
[「ごんぎつね」音読100回に挑戦しよう。]
[音読発表会に向けて練習しよう。]
[学習参観で家の人に上手な音読を聞かせられるように練習しよう。]
どんな力をつけたいか明確にして学習課題を設定します。
次に学習活動を考えます。音読を繰り返す学習は学年が上がるにつれ子どもたちは嫌がるようになります。「褒める」「成長を認める」「音読の意味・効果を話す」などの手だてで、意欲を高めていく必要も生まれてくるかもしれません。例えば、私は2年生の「スーホの白い馬」で、地域のお年寄りに音読発表会をする学習をしたことがあります。単元を通して、感想を書く以外は音読しかしませんでした。市販テストの得点は、90点が1名で他は全員100点でした。「読書百遍」とは言いますが、音読というのはこれくらいの力があるのです。音読をしっかりと行えば、「段落相互の関係」や「登場人物の気持ち」に至るにも逆に近道なのです。このような話を分かりやすく子どもたちにして音読の効果を伝えると、ただ読まされているのではないという気持ちになれるでしょう。
また、繰り返し読ませるには、音読のバリエーションもあればあるほどよいです。教師の範読を聞きながらの「黙読」、教師が1文や1節を読んで子どもがまねして読む「追いかけ読み」、教師と子どもが一緒に読む「共読み」、全員で声をそろえて読む「一斉読み」、一文一文をリレーで読む「一文読み」などが基本です。ペアやグループで声を合わせて読ませる方法もあります。自分のペースで一人ずつ読ませる場合は、読んだ数だけ「正」を書くとか、「立って1回、座って1回、窓際に行って1回」など、飽きさせない手だてが有効です。
ねらい・学習課題、子どもたちの状況に合わせて、読ませ方を工夫しながら活動を組みます。
最後は「評価」です。例えば、スムーズに読めるかという評価は、リレーの「一文読み」で捉えられます。個々に読む文は違いますが、短い文にもその子の習熟度は現れます。ペアで片方が聞き役になって確かめることもできます。1分間、自分で読ませてミスを数えさせる方法もあります。また「一斉読み」の間に一人一人の横に立ち、声を聞きながら確かめる方法もあります。「友達と声を揃えて「ごんぎつね」を音読できるようになろう。」という課題の時は、一斉音読の時の口元を見れば確かめられます。教師が判断した結果は子どもたちに伝え、自信や達成感につながるようにします。

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シンプル授業の作り方《初級編》(1)漢字
ここからは、実際の授業づくりを考えてみましょう。
初級編(1)は「新出漢字の指導」です。ここでは低学年を想定してみましょう。
ねらいは「新出漢字を正しい筆順で書けるようになる。」と設定します。これは学習指導要領にも「点画の長短や方向,接し方や交わり方などに注意して,筆順に従って文字を正しく書くこと。」と示されています。
学習課題は例えば次のようなものが考えられます。
[新しい漢字を正しい書き順で書けるようになろう。]
※ここで示す課題は該当する学年で未習のものも全て漢字で表します。
これは、ねらいからストレートに下ろした課題です。
評価も視野に入れれば、次のような課題も考えられます。
[正しい書き順で目をつむっても書けるようになろう。]
このような課題にすれば、学習の最後に目をつむって書けるかの確認(評価)が行われることになります。
次に、学習活動を考えます。ここは自由な発想で考えましょう。
大切なのは「全員に合格させること」。その上で楽しく熱中できる要素があればもっとよいです。
最も簡単なのは、教師が「一、二、三、四・・・」と黒板で筆順を示しながら子どもたちにも空書きさせる方法です。インターネットの筆順サイトの動画を見せて教える方法もあります。
一度では覚えられない子もいます。私の場合は、低学年であれば特に、声を出しながらの空書き、指書き(机に指で書かせる)を繰り返し行わせます。
2年生くらいになると、漢字学習用のドリルに書かれてある筆順表を見ながら自分で書き順を確かめて練習することもできます。この場合も、途中で全員教師に向かって一斉に空書きをするなどして、筆順が正しいかを確認する必要があります。漢字練習ノートの升目に次々と1画ずつ増えていく漢字を書いて覚える方法もあります。
筆順を覚えたら、鉛筆を持って、ドリルや漢字練習ノートに練習する時間を取るとよいでしょう。
当たり前のことですが、学習活動は多様です。
輪番で子どもが先生になって筆順を教える指導も可能です。先生も楽だし、子どもも力がつきます。
教室には、なかなか習得が難しい子もいるかもしれません。そういう子の顔が思い浮かんだら、別の対処法も考えておくとよいです。
そして最後は評価です。
学習の最後に、目をつむって空書きをさせれば、きちんと覚えているかすぐに確認できます。
隣の子に向かって書かせ、隣の子同士で確認する方法もあります。
黒板に書かせる方法もあります。1列目の子が1画目、2列目の子が2画目・・・というように書けば、ゲームのように楽しく確認ができます。
教師が黒板に書いてある漢字のある画に色をつけて、「これは何画目でしょう。」と聞いてもよいです。
いずれにせよ、間違って書いていた子にはもう一度練習をさせて、正しい筆順を覚えさせます。
このような簡単な指導では、私は評価の記録をしません。つまり、成績には入れないということです。その時間に確実な学びがあったかの確認はしますが、それを成績に反映させるかは教師の判断でよいです。
この後、家庭学習で漢字を覚えるための練習をし、市販のテストにある漢字の問題や漢字テストなどで、書けるようになったかの確認をし、その点数を成績に反映させます。この場合も「授業では筆順」「家庭学習で書けるようにする」とねらいをダブらせず明確にすることが効果的です。

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一貫性をもつ②(シンプル授業づくり)
シンプル授業を目指す中で、陥りやすいのが、「ねらいのぶれ」です。
ねらいがぶれることで、一貫性が保てなくなります。
なぜ、ねらいがぶれてしまうのかと言うと、ねらいが絞りきれないことに原因がある場合が多いです。
例えば、次のようなねらいを設定してしまうと、授業の軸はぶれます。
「繰り上がりのある足し算の筆算の計算方法を考え、繰り上がりのある足し算ができる。」
このねらいは、「繰り上がりのある足し算の筆算の計算方法を考える」(思考・判断)、「繰り上がりのある足し算ができる。」(技能)の「2重のねらい」になってしまっています。
この2つを1時間の授業の中で、指導し、評価するのは大変です。
まず、子どもたちは「繰り上がりのある足し算の筆算の計算方法」を考えます。方法を考えるための問題は、27+15だとします。一の位の足し算が、今までは3+4=7のようだったのが、7+5=12になります。12の「2」はどこに書くか。「1(10)」をどうするか。上手に説明できる子もいるでしょう。どうしていいのか全く分からない子もいるかもしれません。その後、子どもたちの意見を集約し、教師が理想的な筆算の方法を提示したとします。そのやり方で、先の27+15はできるようになったとします。しかし、子どもたちは別の38+26もできるようにならなければいけません。なぜならば「技能」もねらいに入っているからです。これも、できる子もいれば、なかなかうまく正解に導けない子もいるでしょう。
「思考・判断」と「技能」の2つの指導をし、2つの評価をし、それぞれにできない子を支援・再指導する。1時間の中でこれだけのことをするのは大変です。
結果として、「どちらも中途半端な指導しかできない。」、「どちらも中途半端な評価しかできない。」というような事態が生まれてきます。もっと言えば、「どちらかの評価はしない。」とか「どちらも評価はしない」という状況も生まれがちです。
これは一貫性が崩れてしまった状況です。
最悪な場合は。「できない子をそのままにしておく。」という事態も生まれてしまうかもしれません。なにしろ、教室には大きく4種類の子がいるのです。
(1)「思考・判断」はA・Bで「技能」もA・B
(2)「思考・判断」はA・Bで「技能」はC
(3)「思考・判断」はCで「技能」はA・B
(4)「思考・判断」はCで「技能」もC
この状況で全てのCの子に対応するのは神業と言えます。
しかしながら、真面目な教師には、つい欲張ってしまう人が多いのです。「よい授業をしなきゃ」とか「遅れないように進まなきゃ」という心理が、授業を複雑にしてしまいます。結果として、よい授業もできないし、進度もはかどらないのです。
一貫性をもつためには、ねらいを絞る。
上の例で言えば、思考・判断の「繰り上がりのある足し算の筆算の計算方法を考える」に絞るのであれば、この時間は、技能面で十分でなくても、次の時間にまた習熟を図ればよいです。
また、技能の「繰り上がりのある足し算ができる。」に絞るのであれば、計算方法は考えさせずに、すぐに計算方法を教え、「初めに一の位を計算します。5+7=12。一の位に2を書いて、十の位に1繰り上げる。」という手順をしっかりと覚えさせます。(私ならこの授業であれば後者を選択すると思います。特に配時が1時間しかない場合はそうします。)
ねらいを1点に絞り、小さなステップを上がり、評価をして押さえる。
一貫性のある授業で力を確実に伸ばすのです。

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一貫性をもつ①(シンプル授業⑦)
《授業の基本構成》
ねらいの設定→学習課題→学習活動→評価
ここまでで、授業をシンプルにするための「ねらいの設定」「学習課題」「学習活動」「評価」の留意点を述べました。
・ねらいを明確にし、するべきこととしなくてもよいことを明らかにする。
・ねらいを達成するための学習活動を自由な発想で考える。
・子どもたちが自信や達成感をもてる評価をする。
・子どもたちが「何をすればよいか」や「何を目標にすればよいか」が、はっきりと分かる学習課題を設定する。
さて、授業の基本構成を
ねらいの設定→学習課題→学習活動→評価
と示しながら、教材研究では
ねらいの設定→学習活動→評価→学習課題
という順序で説明しました。教材研究の順序には、きまりはありません。その教科、教材でやりやすい順序で設定していけばよいと思います。
ただ、その中で気をつけなければいけないのが、「一貫性をもつ」ということです。
例えば、一貫性が意識されていないなあと思う授業にこのようなものがあります。
〈ね ら い〉登場人物の気持ちの変化を捉える。
〈学習課題〉「ごん」の気持ちが変わったところはどこか考えよう。
〈学習活動〉「ごん」の気持ちが変わったと思うところに印をつけ、お互いの意見を交流する。
〈評 価〉今日の授業の感想を書く。
この授業の問題点はどこにあるでしょう。
まず〈ねらい〉である「登場人物の気持ちの変化を捉える。」は揺るがないものとして考えます。
そのための〈学習課題〉『「ごん」の気持ちが変わったところはどこか考えよう。』も、ねらいを子どもの意識に合わせて下ろしています。
そして、〈学習活動〉も、「印をつける」「交流する」という具体的な活動で、ねらいに迫るようになっています。
この場合の問題は、〈評価〉です。漠然と感想を書かせてしまっては、今日のねらいが達成されているか教師は把握できません。また、子どもたちも今日の学習が達成されているか分からないし、そこから自信や達成感も生まれてきません。
この授業のねらい、学習課題、学習活動に合った評価を考えてみます。
・ 交流を終え、自分の最終的な意見をワークシートに書く。
・ 教師が『今日、「ごん」の気持ちの変化したところを見つけられた人は手を挙げましょう』と言い、挙手させる。
・ 教科書やプリントに、気持ちが変化した印が書けているか教師が一人一人確認する。
・ 気持ちが変化した印を書いた教科書やプリントを提出する。(後日、評価を書いて子どもに返す。)
などが考えられます。いずれにせよ、「登場人物の気持ちの変化を捉える」というねらいが達成されたかどうかを把握し、場合によっては達成されていない子に再指導ができるような形にしなければなりません。また、できた子には、プリントに「合格」のハンコを押したり、「できたね」「すばらしい」などの声がけをしたり、「できた人」「はーい」と挙手の機会を与えたりして、達成感や自信を与えられればよいです。
学習課題で示したことを、子どもたちがしっかり行ったか、できるようになったかを教師が確認し、評価することで、子どもたちは「先生は、課題に書いたことはちゃんと確認するんだな」と学習に対する構えが変わります。
逆に、学習課題で言われていないことを最後に評価されてしまうと、子どもたちは学習課題の重要性を感じなくなってしまいます。
ねらいから、評価までの一貫性があることで、シンプルでも効果的な授業ができるのです。

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「学習課題」を設定する(シンプル授業⑥)
《授業の基本構成》
ねらいの設定→学習課題→学習活動→評価
ここまでで、
- ねらいを明確にし、するべきこととしなくてもよいことを明らかにする。
- ねらいを達成するための学習活動を自由な発想で考える。
- 子どもたちが自信や達成感をもてる評価をする。
という流れで授業の大きな流れを組み立ててきました。最後は、「学習課題」でこの流れに軸・背骨を入れて、全体を支えます。
1年生鉄棒「足抜き回り」で考えてみましょう。
ねらいからそのまま下ろせば、
[足抜き回りができるようになろう。]
ということになります。これでも十分です。
でも、子どもたちの中にはもうできている子もいるのです。全員が意識できる課題が望ましいです。
[今より上手な足抜き回りができるようになろう。]
[かっこいい足抜き回りができるようになろう。]
[自分の足抜き回りをかっこよくしよう。]
[ピョンピョン連続足抜き回りを目指して練習しよう。]
このように現在よりも上達することを学習課題にすれば全員が意識することができます。ただ、「ピョンピョン連続足抜き回り」のように、最高のレベルを目標にすると、多くの子が「できなかった」という思いをもってしまうかもしれません。最後の評価で自信をもたせるためにはあまり高いレベルを目標にするのは得策とは言えません。
もし、運よくオリンピック選手にゲストティーチャーに来ていただけたら、子どもたちに意識させる学習課題にします。
[内村航平選手の教えをよく聞いて、足抜き回りが上手にできるようにがんばろう。]
また、視聴覚教材等で、足抜き回りのレベルを「名人」「達人」「上級」「合格」などと分けて示すことができれば、
[自分の足抜き回りのレベルを上げよう。]
[足抜き回りの上のレベルを目指してがんばろう。]
などと、シンプルに目標を示すことができます。
子どもたちが、この時間に何をすればよいか、何を目標にすればよいかを分かりやすく明示するのが学習課題です。
さて、具体的な学習課題の設定の方法については、後で詳しく説明するとして、学習課題をより効果的に子どもたちに示すツールがこのブログで紹介している「課題ボード」です。
深緑色の黒板に、白地に赤枠の課題ボードに水性ペンで課題を書くと、否応なしに、子どもたちの目に飛び込みます。
したがって、課題を書く教師も、いい加減なことは書けないという構えになります。
子どもたちは課題に書かれたことを意識して1時間の学習に取り組みます。
シンプル授業には非常に有効なツールとなります。

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「評価」を考える(シンプル授業づくり⑤)
《授業の基本構成》
ねらいの設定→学習課題→学習活動→評価
「学習活動」の次は「評価」になります。
「学習課題」を抜かしていますが、これは授業の要ですので、教材研究の段階では、最後に決めても遅くはありません。
1年生の鉄棒、「足抜き回り」で評価を考えてみましょう。
評価基準を明らかにします。
上手な足抜き回りは、足が鉄棒に触れません。蹴りの力を生かして、スムーズに回ります。また、足抜き回りは後方に回るものと、前方に回るものがあります。両方がスムーズに連続でできればAとします。
前・後ろ、どちらかにスムーズさが欠ける場合はB。
また、足抜き回りが苦手な子は鉄棒に両手でぶら下がって、片足を鉄棒に引っ掛けてお尻を持ち上げ回ります。回るための蹴りの感覚は身につけていませんが、逆さになる感覚は身に付いていますので、これはギリギリB(B−)とします。
補助がないとできない場合は残念ながらCです。
目標は、全員がBをクリアすることです。
さて、そもそもなぜ評価を行うのでしょう。
評価にはいろいろな役割があります。意識して行うと、効果的な指導に結びつけることができます。ここでは4つの役割を示します。
(1)成績をつけるため
私たちは一人一人の評価を通知表で保護者に知らせたり、指導要録に記録したりしなければいけません。単元最後のテストがこの役割を担うことが多いですが、普段の授業でも子どもたちのよさや課題を記録していくことで、子どもたちの達成度をより客観的に捉えることができます。また、これらの記録が子どもたち一人一人を理解するための資料となる場合もあります。
(2)指導の効果を確かめるため(全体)
評価は、学習課題や学習活動が子どもの力を確実に伸ばしていたかを確かめるための手だてとなります。その結果を基に、場合によっては指導をやりなおさなければいけないこともあるでしょう。よくなかった原因を突き止め、その後の指導に生かすことも大切です。
(3)指導の効果を確かめるため(個)
教師の指導が個々の力をどれくらい伸ばしたのか確かめます。全員がAになるような指導はなかなかできませんが、目標はそこにあります。重要なのはCの子を把握することです。これらの子をそのままにしておく訳にはいきません。休み時間や放課後に個別指導をしたり、家庭に協力を求めたりしてできるまで指導を重ねることが考えられます。全てのCをBにするのは、現実には難しいと思いますが、可能な限りCの状態を抜け出せるように指導を重ねたいです。
(4)子どもたちに自信や達成感をもたせるため
授業の中盤から後半にかけて、評価を行い、子どもたちに自信や達成感をもたせることができます。場合によっては、もっとがんばらなければいけないところを意識させなければいけない場合もあります。その場合も、「今はここまではできている」とポジティブに捉えさせたいです。
シンプル授業の基本構成である「ねらいの設定→学習課題→学習活動→評価」の中では、この「自信や達成感をもたせるための評価」を重視しています。そのための評価の方法については別に詳しく述べたいと思います。
さて、1年生鉄棒「足抜き回り」に話を戻しましょう。
練習の中盤から後半に一人一人を評価する時間を取ります。
抜き打ちで評価をするのではなく、授業の初めに「こんなふうにピョンピョン、前、後ろに何回も回れたらすごいよ。」、「苦手な人は、両手でぶら下がって片足を引っかけて回ってね。」などと、目指す姿を示しておきます。
評価する時は、一度、全員を集めて、一人ずつ演技させてもよいですが、見られるのが恥ずかしい子もいますので、私は練習をさせながら一人一人に声をかけることが多いです。
前後にスムーズに連続して回れる子には「すばらしい!」「先生より上手だなあ!」などと評価します。
足をかけずに回れた子には「上手!足をつかないで回れたね!」とよさを認め、「連続でできるともっといいよ」さらなる目標を示すこともあります。
足をかけて何とか回れた子には「合格!」「やった!できるようになったね!」と成長を評価します。
残念ながら教師の補助が必要な子には「前より上手になったよ。」、「先生の手が軽くなっているよ。」などと成長を見つけて認めます。休み時間や放課後に時間をとってあげられればよいのですが、多忙な現場ではそれがままならないのが現実です。本人ができるようになるためのレディネスが十分でない場合もあります。「2年生の鉄棒の勉強でまた練習しようね。」「それまでに時々、鉄棒で遊んでね。」と次につながるように言葉がけをしたいです。
以上の評価は、(4)の「子どもたちに自信や達成感をもたせるための評価」です。これをしっかりと行えば、(1)の「成績をつけるための評価」も、(2)(3)の「指導の効果を確かめるための評価」も自動的にできています。
シンプル授業の仕上げは「評価」です。それは、子どもたちに自信や達成感をもたせ、場合によっては目標や課題に気づかせるための評価です。「評価」は場合によっては、「学習活動」以上に子どもを伸ばす力をもっています。先生にほめられたことを大人になっても覚えている人がいるのです。毎時間、全員をほめるなんてとてもできませんが、「今日、できるようになった人は手を挙げましょう」と手を挙げさせるだけでも評価です。その積み重ねが大切なのです。